第1回 「加藤肇司さんのアトリエ」 なかはらみほこ

作品を鑑賞するとき、まずは作品の前に立ち、作品と対話することが大切なのは言うまでもない。そして、その作家に興味を持ったならば、その舞台裏や普段着の作家に接するのも案外と面白いものである。
去る5月25日、須藤館長夫妻をはじめ総員九名で、加藤さんのアトリエのある茨城県八郷村を訪れた。常磐線石岡駅で加藤さんの出迎えを受け、車で走ること三十分、どんどん田舎の田園道に入って行き、山のガタガタ道を登って行く。こは山の中のどん詰まり、隠山の見晴らしのよい南斜面.電気も水道も道路もなかった所へ、村の人達の協力の下、雑木林を切り開いて、ただ一軒、加藤さんのお宅がある。都会の雑踏を逃れて孤高に暮らしている画家と思いきや、実は加藤さんのお宅は大家族なのである。
陶芸をなさっている奥様の手作りのお皿で、美味しいお料理を頂きながら、自然の中での暮しぶりを伺った。この地に移り住んで13年、村の人達にすんなり受け入れられたのは、やはりお人柄か。加藤さんはまことに他者をよく生かし、他者と共存なさりながら、御自身の内に流れる時間を大切にされていると感じた.手入れの行き届いた庭に別棟に建てられた、太い松の木の梁の天井、白い漆喰の壁のアトリエ。
自然と共に暮し、豊かな時間の流れの中で、内省的に思考され、生まれ出てくるこれからの作品が楽しみである。

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