第8回 「入江比呂さんのアトリエ」 須藤紀子

5月、新緑の美しい季節、鎌倉笛田の入江比呂のアトリエを訪ねた。参加者12名。
今回のアトリエ訪問はこれまでとはちがい作家はすでに12年前に85才で亡くなっている。このアトリエは美術家であり美術評論家でもある門田秀雄さんに全作品を含めすべてが遺贈されたものである。したがって門田さんご家族のたいへんなご苦労のおかげで、生前、作家が住んでいた状態で保存され、隔年にアトリエと作品が公開されている。入江比呂にとって門田さんとの出合いは大変幸運であったことは間違いない。
玄関を入ると左手にアトリエ、正面に居間がある。居間には広縁がありその向こうに小高く斜面になっている庭が広がっている。アトリエだけでなくここにも十数点の作品が新緑の中に置かれている。
生前比呂はアツサンブラージユの作品を庭に出し風化にゆだねたという。呼び寄せられるように庭に出て緑の小山を登った。入江比呂の作品は使い古し、捨てられた日用品や、工場で廃棄された鉄片、ガラス、針金、割れたプラスチックなどを寄せ集め作られている、アツサンブラージユという手法である。私の好きな「ロッカーマリア」「ヒロのビーナス」「玉喰った犬」などがまたそこに蘇っていた。入江比呂はプロレタリア美術運動に参加し、また「前衛美術会」を結成するなどして社会と芸術に対してたゆまない戦いをつづけた。健全な精神の自由を生涯貫きとおした作家であり、その作品は今の時代にますます輝いてきたと思われる。
私達は門田さんご夫妻の暖かい接待を受け、気持も高揚し帰りはそれぞれが鎌倉を散策しながら帰途に着いた。

>>> 一覧に戻る