第11回 「杉本裕子さんのアトリエ」 中川セツ子

杉本裕子さんとは昨年のベルリン美術旅行の時からはじまりました。偶然宿泊ホテルが同室となり絵より先の出会いでした。1年ぶりにアトリエ訪問という好機が訪れたわけです。同行者は副館長と松井さんの3人でした。
2月という時節柄か、寒い雨の日でしたがまず杉本さんの出品している西宮作家展を見、次に杉本さんが講師をしているグループ展も見ました。生徒さん達の作品はどれも自由で伸び伸びとしていました。ここでも杉本さんの力量を感じました。
夕方いよいよ杉本さんのアトリエに向かいました。波止町という町名のとおり、海に面した空気のいいところに、白いマンションが建っていました。そこで私たちは手作りの夕食をいただきなら絵の話やら旅の話し等いつまでも語りあい、ようやくアトリエヘと足を運んだのでした。
割と広いアトリエの周囲にはわずかに描きかけのキャンバスがあり、部屋の中央には、使い込まれた大きなイーゼルが一脚だけ。隅にはすどう美術館での個展の作品が準備されていました。
ほんの少し青い色がみえますが、ほとんど黒・白であり激しさは抑えられて静かな感じさえする作品群でした。
杉本さんの作品との戦いの場がそこにかいま見られ、こわいような、緊張するような気持になり私は長い時間アトリエにいるのは辛くなりました。
杉本さんは仕事を始めると夜が明ける頃迄何時間でもキャンバスに向かうことがあり、身体はキツくないのに頭がどうかなるのではと思うこともあるということでした。著さがあるからまだこのようなことが出来るのだと感心すると同時に少し心配にもなりました。
余計なもののないシンプルなアトリエが力強いようでいて静かな感じのする杉本作品を誕生させていることを改めて確認しました。
私たち三人は杉本作品にひかれながら雨の降る夜、アトリエを後にしました。

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