第12回 「出口道吉さんのアトリエ」 高橋英巴

5月の良く晴れた日、京王線の「百草園」にお住まいの出口さんのアトリエを訪ねた。
アトリエは有名な植物園に近い緑の多い恵まれた環境の住宅地にある。
最初に2階のリビングで制作についてのお話に耳を傾け、そしてアトリエに。アトリエは玄関脇の1階にある。訪ねた日は、ギャラリーのように壁一面作品が展示してあった。作品は、現在出口さんが関心を持って取り組んでいる透明プラスチックの半球体の中に枯草や花、ぬいぐるみ等が閉じ込められていて、半球体はもう一方のモチーフの写真等と組合わせることによってひとつの作品になっている。
出口さんは造形美術に飽き足らなく、感情の中に潜むもの、時の経過の中で自分の係わったものから一度退いて無私になることから見えてくるものを表現しようと試みている。その手掛かりとしてのモチーフが写真であるという。出口さんの写真は身近な家族や窓、子供部屋また、散歩の途中で出会った花等、長い時間見続け、時間を共有してきたもののみが作品の対象となる。しかし撮った写真はすぐに作品にすることはなく時の流れの中に放置される。放置された時間にものは作家の見えない所で勝手に変化したり作家の心情を変えたりしていく。
出口さんの作品にはわざと見えなくしたり伏せたりしているものもあり「見えないことによって見えてくるものがある」という問いかけを私達に発信する。アートの巾広さと、鑑賞することの楽しさを、また教えられた一日であった。
私たち三人は杉本作品にひかれながら雨の降る夜、アトリエを後にしました。

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