第16回 「川口アートファクトリー」 高橋玉恵

今回は、かつて鋳物の街として栄えた川口で工場跡地が次々とマンションなどに変わる中、工場の建物を作家のアトリエや住居、展示スペースに活用している川口アートファクトリーを訪ねた。まず、代表の金子良治さんからお話をうかがう。金子さんは、工場のスペースをアトリエとして最初に貸した彫刻家たちの姿から、作家として制作を続けていくことの厳しさを知り、そこから本格的にアートの拠点としての構想をたて始めたという。
昭和初期からの建物である工場の内部は、長い年月大切に使われてきた時間の経過を感じさせる。現在約8名の作家がアトリエや住居として利用している。訪問当日は、彫刻の川上香織さん、高野浩子さん、日本画の義村京子さん、鋳金の後藤雅樹さん、立体作品を使いワークショップなどを行う兼子久美さんにお会いした。アトリエは、壁一面の大きなキャンバスの下に床いっぱいの絵の具や材料が広がる部屋、何体ものトルソが置かれ、そばにはデッサンや作品への試みの数々が見られる空間など、制作現場からは作品の要素となる作家それぞれの空気が感じられた。
将来のビジョンを目指して、日々制作に向かっている作家たちの表情からは充実感が伝わる。制作する場を持ち、お互いによい関係を保ちながら生活できる環境を、金子さんが軸となって皆と一緒に作っていることが、随所に感じられた。
川口アートファクトリーでは地域に根ざした展覧会の企画を行い、今年秋には環境をテーマとした展覧会やシンポジウムが予定されている。

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