第17回 「小林雅司さんのアトリエ」 津田道夫

高崎線熊谷駅からバスで約三十分、終点「妻沼聖天山」(めぬましょうでんざん)前で下車。皆でお参りを済ます頃、小林さんが迎えに来て下さり、車に乗って五分程でお宅の前に。左に母屋、右にアトリエ。その二棟を繋ぐ空中廊下の下をくぐると、ゆったりと畠が拡がり、視界の心地よさに暫し皆うっとり。
アトリエに入ると、何やら面白い立体作品に迎えられる。荒縄を巻き上げた筒の上部を叩くと妙なる音を発する竜、木とは思えない不思議な質感の二体のトルソ、亀?の背に乗るとぐるぐるっと回る遊具等々。私達の余り知らない小林さんを発見、とても興味深かった。靴を脱ぎ隣の部屋に上がると、両の手に包み込んでいたくなるような木彫作品が数多く展示され、そこは将に、私達のよく知る小林ワールド。奥さんお点前のお茶を頂きながら、小林さんの話を伺う。
東京下町で生まれ、十七歳の時、ロダンの彫刻に出会い本を読み、高村光太郎などにも惹かれ、彫刻の世界にのめり込む。ヒッピーだった十代、二十歳を過ぎて、武者小路実篤の「新しい村」に入村、農作業に明け暮れる五年を過ごし、創作の時間がもっと欲しくなり村を出るが、今も「村」との繋がりは大切にしている。父親が謡いに熱心だったせいで、子供の頃から古典や神事に親しみ、「自然」「命」「神」など根源的なものを純粋に追い求めるようになり、今も創作活動の根底はそのことと深く関わっている、とおっしゃっていた。静かな、しかしゆるぎない信念に裏打ちされた小林さんの語りは、妻沼という土地の空気と違和感なく溶け合っていた。
ここはまた、館長が疎開して高校卒業までいた思い入れの深い故郷。その館長たってのお勧めで、利根川の土手を少々散歩してから、一同帰途についた。

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