第18回 「エルミニオさんのアトリエ」 朝比奈 賢

スペインの彫刻家エルミニオさんのアトリエを訪ねたのはビーゴで開催されたアートフェアの後である。一行7人は2台の車に分乗しスペインの北端、アストゥリアス地方の海辺の村「ラ・カリダ」に向った。彼はこの地に生まれ育ち、今も住んでいる。
まず自宅に通されたがまるでギャラリーのよう。室内には自作のみならず現代美術がところ狭しと展示されている。それらの魅力を最大限に引き出すための行き届いた改装が施されている。生活用品は厳選され余分なものは一切無いが、不思議と居心地がいい。ここまで築き上げるのに、どれほど多くの厳密な決断を必要としただろうか。作家として生きんとする覚悟に圧倒される思いがした。
自宅に続くアトリエへは屋根の上に架けられた橋を渡って行かなければならない。そこは発明研究所のような雰囲気だ。発明家だった叔父の影響が大きいのだろう。ふと見ると、ガラス箱の中にラジカセが入っている。何だろうと思う。ペダルを踏むと扉が開いて裸電球が点灯し音楽が鳴り出すのである。また何かの装置の上に蓋付きコップが置かれている。取っ手を下げると自動的に蓋がスライドし、水がペットボトルから管を通って注がれてく。遊び心と奇抜な仕掛けにあふれた仕事場であった。
彼の創作は、自らつくりあげた生活環境によって内的動機が方向づけられ、あたかも自ずと作品が産み落とされてくるように見える。彫刻のミニマルな構成や重力を裏切るバランスの妙も、生活空間の反映と言える。
故郷を離れることなく、万国に通じるひとつの世界が創り上げられていたことは、我々に何かの啓示を与えているようであった。

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