005 心のごはん

神奈川県にある向田小学校から「出前美術館」をお願いできないかとの申し出でを受けた。
「出前美術館」というのは私が勝手につけた名前で、所有する美術のコレクションを担いで行き、気持があっても美術館やギャラリーになかなか出かけていない人たちに見てもらう展覧会である.これまで遠くは富山、金沢まで出かけているし、近くは横浜や都内でも行っている。最近は見てもらうだけでなく、たとえば今年2月の横浜の大きな障害者施設での出前では、会期中、来場者みんな一緒になって絵を措いてもらうワークショップを行ったり、若い落語家の協力を得て絵の展示会場で落語をやってもらったりと企画を膨らませている。
さて、小学生に生の絵を見せてあげたいという担当の先生の熱意と、豊かな人間になるには小さい時から本物の絵に触れることが大事だと考えている私の気持が一致して、この申し出でを安けることにした。
会場は広い多目的室で立体作品数点と小品から120号までの60点を越す絵画作品を持ち込み展示したが、部屋は一瞬にして素敵な美術館に早変わりし、楽しい空間になった。
会期は10月の7日から3日間という短い期間であるが、その問の1日は1年生から6年生まで学年ごとに45分ずつの授業を行った。
画家の住谷英知江さんと美術館のスタッフ高橋の応援によって行ったこの美術鑑賞の授業は感動的であり、めったに味わえない経験をすることができた。抽象的な作品が多く、大人だと 「わからない」 という人が多いのだが、子どもたちは自分の眼で作品を受けとめ、ひとりもわからない子はいないのである.知識でなく、自分の身体で素直に反応し好きな絵を選んでいる。そして、それぞれの時間、絵についての感想や質問を受けたのであるが、どの学年の子どもからも銃く的確な言葉が返ってきた。
私は話の中で「ご飯を食べないとお腹がすくし、からだが弱ってしまうでしょう。それと同じように心にもご飯が必要なのです。絵は『心のごはん』なのです」と説明したが、みんなわかってくれたようでうれしかった。
休憩時間にはこどもたち大勢からサインを求められ、マリナーズのイチロー気取りで署名をした。これからは子ども用のサインの練習もしなければならない。
最終日、先生方に講演をさせていただいたが、最後に私がお願いしたのは、「純粋な子どもたちの絵に優劣はない、どの子の絵についてもほめてあげてほしい、できれば絵に点などつけないでほしい」ということである。
指導要領に縛られている先生方は賛同してくれながらも、すこし困った顔をされていた。

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