016 マルティン・ファウゼルさんを往訪して

1月30日から2月14日まで開催したドイツ人の作家マルティン・ファウゼル展はとても好評であった。仲介の労をとってくださった堀典子さんのご協力もあり、大勢の方が見に来てくれ、たくさんの賛辞の言葉をいただいた。
アクリル絵具をほぼ透明に見えるほど薄く溶き、一枚の小さな絵でも100回以上も塗り重ねて作られた神秘的で魅力に溢れた作品であった。
さて、私は、その興奮もさめやらぬうち、ドイツのカールスルーエに旅立った。今年3回目となるアートフェア出展のためである。その期間中、マルティン・ファウゼルさんのお宅を思いがけなくお訪ねすることができたのである。
ぜひ、ファウゼルさんに会ってきたらとの堀先生の強いおすすめとご本人からもていねいなご招待をいただいたこともあり、会期中を抜け出した。
早朝出発、電車を乗り継いで、2時間半ほどで、ファウゼルさんの住むレーベンスブルグの駅に着く。そこへご本人が車で出迎えてくれ感激的な対面、想像していた以上の穏やかな暖かい人で、無口でなければ隠遁生活の人でもない。駅から車で15分ほどでお宅に着いた。静かなこじんまりとした町の中にあり、庭には黒いふちのある白い野うさぎが遊んでいたり、隣りの屋根のてっぺんにはコウノトリが見えたり、町の真ん中には四方どこからも見える教会があったりのところである。
素敵なお宅の中はどこにもファウゼルさんの絵がかけてあり、広いリビングには100号近い絵も数点かけてある。奥様や子供さんからも心温まる歓待を受け、おいしいランチをいただいた。ちょうど留学中の陶芸家勝田素子さんにいっしょにきていただき通訳をお願いした。私は英語もほんの少し、ドイツ語は全然話せない、したがってファウゼルさんとは言葉は通じない筈であるが、お互い気持ちは充分通じ合えたように思う。来年もすどう美術館で展覧会を行なう了承を得ることもできた。
食後、すぐ近くにあるアトリエに案内していただいた。
天井の高い大きなアトリエには、ところ狭しと絵が並んでいた。床までたれた絵の具の跡が幾重にも重なって美しい。どの位の時間を費やしてこんなに描いているのだろうか、気の遠くなるような時間の経過を思った。画家の制作の現場はいつの場合でも緊張と高揚感がある。
帰りには奥様と娘さんが有名なボーデン湖を見せてくれて駅まで送ってくれた。人情は世界中どこも変わらないのだとうれしい一日であった。
おみやげにいただいた当地の白ワインとチョコレートが忘れられない味となって残っている。

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