018 いい絵いい人との出会い

美術の活動を始めてもう二十一年になる。なかなかたいへんなことも多いが、いい絵、いい人との出会いがあるのがうれしい。
五月にこんなできごとがあった。二月に南足柄市の岡本小学校で頼まれ、出前美術館を行なったことがきっかけで、利根川佳江展に五年生になった剱持瑠美ちゃんがご両親と一緒に見に来てくれたのである。そして、目を輝かせた瑠美ちゃんは一番気に入った作品を選んで買ってくれた。
この経緯については利根川さんの別記の「個展を終えて」の中で触れられているが、すどう美術館では五年生のコレクターが誕生したのである。
さらに感激したのは瑠美ちゃんのお母さんについてである。実は利根川さんと相談し、瑠美ちゃんが気に入った作品の値段を少しまけてあげようとしたのであるが、「作家が一生懸命作った作品を値引きしてはいけません」と断わられた。瑠美ちゃんに絵の価値を大事にするということと、あわせて家の手伝いをさせることによりお金の大事さを教えたいというしっかりとした考えを持ってのことである。
ところで、そのお母さんが、別室で行なっていた加藤肇司展を見て、九〇×九〇センチの大きな作品のとりこになり、生きる力が湧くのでどうしてもほしいとご主人に訴え、買うことにしてしまった。そして、この絵に出合って幸せと涙を流すのである。お母さんは「うちは裕福ではなく、家も狭いので常時掛けられないが、しまっておいて時々見るだけでいい」のだという。
瑠美ちゃんもお母さんもはじめて美術の作品を買うわけであるが、お父さんも家族が幸せになるならと暖かく認めてくれた。
こういう出会いがなんとも素晴らしく、利根川さん、加藤さんの二人の作家の感動、私たち美術館スタッフの感激。あらためて、美術の活動を続けていてよかったとしみじみ感じたのである。

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