019 学生のレポート

六月の末に明治大学で同じ日に二回、講師として講座を担当した。
十四週にわたる講座の中の一日で、全体のテーマは「いのちとかたち―人間文化の深層を探る―」。最初はお茶の水の校舎で一般人を対象とする公開講座、次は杉並にある和泉校舎に移動しての学生への講座である。
私のテーマは「豊に生きる―美術との出会い―」とし、私が美術に関わるようになった経緯、私の美術についての考え方、そして、持論である美術は人間の精神面でなくてはならない「心の糧」、「心のごはん」であるとの講義を行なった。
講義は公開講座の人たち、学生それぞれどんな風に受け止められたのであろうか。
何日か経って、事務局から各講師はレポートの題を提出するようにと依頼があった。その中から学生が課題を一つ選びレポートを提出するということである。二単位になるのだそうである。
私は「美術が人間の精神面でなくてはならないものという考え方についてあなたの思うことを述べよ」という題を送った。美術の大学ではなく、法、政、商と情報コミュニケ各学部の学生であり、このテーマを選ぶ学生があるとしてもせいぜい一、二名であろう思っていたのである。ところが、驚いたことに、二週間ほどして、事務局から二十四人分のレポートが送られてきた。そして採点をしてほしいとの手紙が添えられていた。
さて、レポートを読んで感じたのであるが、総体的に予想以上のレベルの高さで、それぞれがとても論理的であり、美術についての知識や考え方、自分の美術に関する体験などとても豊富で、逆に教えられることがたくさんあったことである。美術の社会的役割を説き、また「多くの人が美術に触れなくても何の支障もなく生きている」ことへの疑問を呈し、具体的な例を挙げて美術の必要性を実証したりしている。
一部にせよ、若い学生がしっかりした考えを持ち、こんなに美術についての関心を身につけているなんて、日本の文化の将来に明るい希望が見えてきたように思われた。

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