030 画家 河野 扶の顕彰

 うれしいことに私の敬愛する画家 河野 扶(1913-2002)が今あらためて顕彰されている。2月、長野県東御市にある梅野記念絵画館で河野 扶展が開催され、多くの方に感動を与えたのである。亡くなった前館長の梅野 隆さんが見出し、その意志を継いで現館長、副館長の佐藤夫妻が苦労しできた展覧会である。
 生前10年近く親しくお付き合いをさせていただき、数回にわたり個展を行なってきた私は、なんとかもう一度この画家を世に出したいと考えていたところであり、今回の展覧会に何点かの作品を提供するなど、ささやかながら協力をすることができたのは幸いであった。
 自らを壁塗り職人と謙遜していたが、その厚塗りの作品からは俗世間の名声や栄誉を越え、厳しく律してきた画家の生き方が強く伝わってきて心に響くものがある。東京帝国大学数学科を卒業し、生命保険会社に勤めたり、旧制の高校などの教員になったりしたが、いずれもぬるま湯で、これでは絵が描けないと辞めてしまい、17年間、定時制の先生になって昼間は絵を描いていたというユニークなひとでもあった。
 文章を書くのにも優れた才能をもち、戦後、毎日新聞社の「天皇制」について出した論文が最優秀賞に選ばれている。すどう美術館では定期刊行の美術館ニュースに小文をいただき、「点描」いう欄を設け掲載していたが、「寸鉄人を刺す」文章がとても好評であった。
 これをきっかけに、いろいろな形で「河野 扶」が取り上げられることを期待したいと思っている。

すどう美術館 館長 須藤一郎



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