032 イタリアの場合

 ミラノに在住し、イタリア、日本だけでなく広く世界で活躍している画家の松山修平さんは日本に来られると、いつもすどう美術館に寄ってくれる。そして、しばらく美術についての情報交換をする。
本年も来館されたが、その時の話の中で「イタリアは経済事情が深刻のようですが、美術の状況はいかがですか」と聞くと、「そんなことに関係なく絵だけはみんな買っていますよ」というのである。
人生を豊に過ごすのにアートが必要ということを自然に身につけているからであろう。
 松山さんの続きの話で、イタリア人はどんな環境でも、必ず夏には長いバカンスを取って楽しむのだという。それは、そのために働いているという強い意識があるからなのだそうである。
 たまたま、同じころイタリア在住の塩野七生さんのエッセイを読んでいたら、関連して興味深いことが書いてあった。
 日本では会った人へのあいさつで、「お忙しいですか」と声をかけることが多いが、働き好きの日本人は幸いにして、という意味を込めて「おかげさまで」と答える。それに対して、イタリア人だったら「不幸にして」と答えるとのことである。
 忙しければ忙しい中での幸せがあるかもしれないが、少し、余裕をももって生きるということが必要ではないかと、自分のことを省みながら思っている。
ついでながら「忙しい」の忙は心を亡うと書くわけであり、つい「忙しいです」といってしまうが、このごろは「充実しています」ということにしている。


すどう美術館 館長 須藤一郎



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