033 絵とはなにか

 いまさら絵とは何かというのも変であるが、絵についてちゃんとした定義があるわけではないように思う。
現代アートや大きな作品は額なしで展示することもあるが、しかし、作家も見る側も、絵とは額や枠の中に閉じ込めて表現されるものと考えている場合が多いように思われる。
 私は作家の方々に額や枠の概念にとらわれず、それを超えてどれだけ自由に自分の表現したいものを表現するかということが大事ではないかと訴えている。
 もう一つ、絵には空間、余白といったものがあってほしいと思っている。
 いわゆる完成度の高い絵を見ると、すごいなあと感じるが、一方通行の受け方で終わってしまい、こちらから反応することができない。見る人がその絵と対話できる作品、そして、空間や余白の部分に、見る人が頭の中で自分の色や思いを加えられる作品がいいのではないか。要するに描く人と見る人の二人で作品を作り上げるということである。
 もっとも、たとえば厚塗りであっても、その重要性を意識している作家の作品には空間や余白がしっかりと感じられる。
 西宮在住の杉本裕子の作品にはその両方がある。すどう美術館ではもう長い付き合いであるが、この三月に行った個展でもそのユニークさが際立っていた。
額や枠などの概念は吹き飛ばされた大胆にして自由なフォルム。キャンバスは破られたり、板に貼り付けられたり、板をはみ出したり。
表面はほとんどが白塗りだけの作品で、少しブルーの色などが見えるものもあり、また、ちょっと真似のできない線が描かれているものもあるが、まさに余白と空間の世界である。それでいて計算されている細心さも潜んでいる。
実物を見ないと理解しがたいかと思うが、絵とは何かとあらためて考えさせる展覧会であった。


すどう美術館 館長 須藤一郎



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