035 身の丈

「生きて行くには背伸びせず、身の丈に合わせて生活をするのがよい」と言う言葉がある。確かにそれは平穏に生きるうえで必要なことであろう。
 でも、私はアーテイストのひとたちに、自分の限界に挑戦し、それをどう超えるかがいい作品を生むうえで大切なことであり、そのためにしっかり覚悟を決めて、制作に取組んでほしいと言っている。
 しかし、限界のギリギリまでは行くのであるが、それ以上の冒険ができず、それなりの作品で終わってしまうアーティストが多い。
 ひるがえって自分の立場を考えてみると、サラリーマンだけの生活で終わり、身の丈に合った生き方をすべきであったかのかもしれない。
 だが、いつのまにか美術の活動に身を置くようになり、いろいろな人に助けられてではあるが、背伸びをしながら生きるようになってしまった。
 会社退職後、銀座に進出してしまったのをはじめ、今の小田原の地でも「アーティスト・イン・レジデンス」や「東日本げんきアートプロジェクト」等の活動を行なっており、若い作家たちを応援するための「若き画家たちからのメッセージ展」も続けている。
 また、地方のギャラリーや障害者の施設、それに小学校などに作品を持って行っての「出前美術館」も続けてきており、頼まれれば、出来るだけ受けていきたいと考えている。
一つ一つが能力の限界を超え、たいへんであるが、何とかこなすことができてきたのは幸せだったという以外にない。
 これからいつまで美術のことが続けられるかわからないが、ずっと身の丈を越えた活動になるのであろう。
 もともと小柄な私は他の人より余計背伸びをしなければ追いつかないのである。


須藤一郎



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