040 一寸先は光

 「一寸先は闇」ということわざがある。「すこしでも先のことはなにが起こるかわからない」という意味である。
 東日本大震災から始まり、西日本を中心とする大雨災害、広島の土砂災害、そして御嶽山の大噴火から続いている箱根大涌谷や阿蘇の噴火活動など思ってもみない天変地異が次々起こっている。
 身近なことでも親族や親しい友人あるいはその関係者の急な死や重篤な病気など、予想をしていないことが起こる。全てが他人事ではなく自分にもいつ降りかかってくるのかわからない。昨年、ほとんど予兆らしいものがなかったのに突然妻が意識を失って倒れ、大病したのもそうである。
何がいつ起こるかわからない。まさに一寸先は闇といえよう。
しかし、一寸先は闇と考えるべきなのであろうか。
 もう何年か前に亡くなられたが、具体美術を代表する作家の一人に元永定正さんがいる。生前、損保ジャパンの美術大賞を受賞した記念展を新宿の東郷青児美術館に見に行き、そのおおらかな画風に強く惹かれたことを覚えている。
京都在住の作家、下千映子さんは元永さんの愛弟子であったが、「元永先生はいつも一寸先は光と言っていました」と教えてくれた。そう言って、まわりの作家たちを励まし、また、自分でもそう思って頑張られたのであろう。
 なるほど少し楽観的に聞こえるかもしれないが、闇ではなく光と捉えた方が明るい気持ちになるではないか。実際、暗いことばかりではなく、誰にでも必ずいいことがやってくるのである。
 私の妻が病から奇跡の生還をし、まだ全体的には時間を要するのであるが、おかげで、普通の会話ができるようにまでなった。このことを私は「一寸先は光」と考えている。



須藤一郎



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