037 蟻の研究

 2014年11月の半ば、男性ふたり連れの初めての来館者があった。新聞の展覧会情報を見てやってきたのだという。
 その時の展示は小田原在住の工芸作家とすどう美術館の作家とのコラボ展「小田原もあ(ものづくり、アート)」展であり、タイトルが「三次元の蟻は垣根を超える」であった。
 工芸とアートの間に垣根があると一般的には思われているが、美を追求する目的は同じであり、垣根を超え、両者が交流し、刺激しあってそれぞれ質を高め、新しいものに挑戦しようとの考えで行われているものである。3回目となった今回は特にその成果が出て、象徴的に使った三次元の蟻はまさに二つの間の垣根を超え、壁はなくなってきている。
 さて、このおふたりに、どういう関心をお持ちで来られたのかを質問すると蟻の研究をしていて、「蟻」という字が目に入るとどこへでも出かけていくのだとのことであった。「展覧会の三次元の蟻…」のタイトルに引き入れられたらしい。
生きた蟻はいないのに、それでも熱心に、興味深そうに展覧会を見ていただけたのはうれしいことであり、いろいろな話し合いができた。
 年配の方は大学等で長い間、蟻の研究を続けてこられ、その世界では有名な人だと、中堅の研究員(学術博士)が説明してくれた。
 今は独立して研究所を設立し、このふたりで研究に当たっているのだという。いろいろ話を聞く中で「蟻の生態を研究するのに蟻はどのようにお飼いになるのですか」と質問すると「蟻の飼育はとてもたいへんで、他のことは何もできなくなる。それで今は専らフィールドワークによっている、年をとったら飼育したい」と所長(年配の方)から返事があった。これに対し研究員から「先生は80歳を超えているのだからもう十分年を取っていますよ」と茶々を入れたのが面白かった。


須藤一郎



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