第15回 「梶原新三先生の仕事場」 林 美喜

桜の花が咲きかけた三月二十日、玉川大学に梶原新三先生の仕事場を訪ねた。染色技法を用いた作品を制作する作家であり、玉川大学の芸術学部でテキスタイルデザインを教えていらっしゃる教授。
広いキャンパスを歩き工房へと向かう。柿渋の塗られた和紙の染め型紙を見せて頂きながら、型染めの伝来、歴史、江戸期に流通された技法とその発展のお話などを伺う。技術、技法の向上は職人の物づくりの姿勢から発展したというお話、布の織りの仕組みなど、興味深い序章の後、先生の作品を観る。自身はファインアートというべき作品を制作されている。技術と知識にしっかりと裏付けされたもの、その上で自在に感覚を表す。幅のせまい布が走っている、下にも布があり、スリット状に染め絵が見え隠れする。別の作品は洋服型紙や布に文字のコラージュ。どのくらいの制作時間ですか?の質問に『そんなに長くはありません、勢いがあるうちに作り上げます』とのお答え、とても納得。気持ちの持続とその間に制作をするという事は、こういうものを作りたいという気持ちが熟しているうちにやり遂げてしまう事。塗りなおしの利かない布と筆との関係にも似て、表現の課程としても理想的だと思った。
素材のお話。あらゆる染め素材を探すと言う事。パイナップルの葉の繊維から作るピーニャ等。でも、昔の戸籍の用紙、和紙の薄紙を気に入り、その古書を作品に収めたりもしている多様さ。感覚を捉えることを大切にしていらっしゃるのだと思った。又、粗い織りで作ったジャケットを漆で固め、同心円状の平面作品と合わせた「風化」=weatheringという作品は自分の作品の行く先を自分でつくるというもの。何より興味深かったのは、テーマとして〈時〉というものがあり、また〈風〉もその一つで、風が通る瞬間の事、古いお寺などで戸障子から通る風を感じるという。そして更には、入り口を通り抜ける時、風が抜ける自分の気配を表現したいとおっしゃっていたのが、何か胸にスッと入ってきた。

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